いきなりですが、これからの薬剤師に求められる”素養”とは、いったい何でしょう?
「素養」:平素の修養によって身につけた教養や技術
「薬剤・薬学に関する深く幅広い知見?」「医療技術の進歩に貢献するための研究・開発能力?」「薬歴や患者との適切なコミュニケーションを通した医療人としての社会的役割?」
今、医薬業界は大きな変革期を迎えようとしています。
少子高齢化という人口動態の変化に加え、想像を超えるスピードで迫りくる技術革新の波は、テクノロジー産業のみならず、医療の世界にも大きな影響を与え始めているのです。
そんな医薬業界において、薬剤師さんたちに今後必要とされる能力とは一体どういったものになってくるのでしょうか。
今回は、医療業界の中でも、特に「薬剤師さんたちを取り巻く環境の変化」という部分にフォーカスし、その未来について考えるとともに、薬剤師さんたちが今後進むべき方向性について検討していきたいと思います。
未来は誰にもわかりません。
でも、大きな変革の波を薬剤師さんたちが今後どのように受け止めていけば良いのか、それを考えるきっかけとして、この記事が少しでもあなたのお役に立てれば光栄です。
それでは、一緒に考えていくことにしましょう。
‐ Contents (目次) ‐
今後の医薬業界・薬剤師を取り巻く環境
冒頭でお話したように、今、薬剤師を取り巻く環境、すなわち医療業界全体としての在り方というものが大きく変貌を遂げようとしています。
それは、大局的には、少子高齢化という構造的な問題への対応であったり、技術革新によって起こるこれまでの常識が根底から覆るような医療制度・技術の変化といったものです。
そしておろらく、その変化のスピードというのは、私たちの想像をはるかに超えるものになるでしょう。
もちろん、技術革新のスピードに抗(あらが)うように、既得権益層の抵抗といったものが発生してくることも予想はできます。
でも、それらは一時的なものに過ぎません。誰もこの流れを止めることなどできないのです。
健康維持や長寿といった、人が生きていく上でかけがえのないものを守るための革新的なアイデアや技術というものは、時間と共に必ず人々の生活に根差していくことになります。
これからこの国は、世界でも類を見ない未曽有の高齢化社会に本格的に突入していきます。
そして、その肥大化した高齢者層を支えていくために考えなくてはならない、医療や介護といった関連産業に携わる人たちの人手不足、また、そうした産業を土台から支えていくための財源の確保といった問題は、待ったなしで目の前に迫ってきています。
そこで、今後発生することが確実視されているこうした大きな問題を解決する”カギ”として期待されているもの、それが「IT」を中心とした”技術の進化”です。
では具体的に、技術の進歩が薬剤師の実際の職場において、どのような変化をもたらすことになるのでしょうか。
それぞれの職種における”未来予想図”を描いてみることにしましょう。
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薬剤の研究開発
まずは「研究開発職」の場合について考えてみます。
これは、「薬剤師」というよりは「薬学のエキスパートたち」というくくりで、非常に限られた層の人たちにしか当てはまらないかもしれませんが、その職種の価値としては、むしろ益々重要度が増すこととなり、今後必要とされる技術的な要求水準もさらに高度化していくということは間違いないと思われます。
その理由は、当然ながら、研究開発に使われる技術に関しても、今後目覚ましい進歩を遂げていくことが予想されるからです。
ノーベル賞を受賞する様な基礎研究や新たな発見を基にし、これまで治癒が困難であった薬剤が開発されたり、研究技術の進歩によって既存の薬剤の研究開発がより効率的に進めることができるようになることで、これまででは考えられないような安価な値段で貴重な薬剤を手に入れることが可能になるといったことが起きてきます。
また、基礎研究を行う大学などの「研究室」や、日々熾烈な開発競争を繰り広げている「製薬会社」の合従連衡が進んでいくことで、大規模な機関はこれまで以上に大きな予算を割き、有力な研究開発を進めていくことになるでしょうし、小さな機関においては、より独自性を磨いていくことが求められます。
つまり、このような環境下において、研究開発職の人たちは「薬剤のプロフェッショナル」として、今後これまで以上のスピードで”日進月歩”にアップデートされていく理論や技術を駆使し、求められる結果を出していくということが期待されることになるでしょう。
MRを中心とした営業職
続いて、「MR」のような、いわゆる「営業職」と言われる人たちの業務の変化について考えていくことにしましょう。(ここでは、薬剤師資格を持つMRという観点から、MRを薬剤師の職種として扱うこととします。)
残念ながら、今後「営業職」としての”薬剤師資格の価値”というものに、これまで以上の付加価値が認められるようになるということは考えにくいでしょう。
むしろその価値というのは、下がっていくことが予想されます。
その理由は、現時点においても、一部の知識集約型の産業における付加価値というのは、ITやインターネットの技術革新によって徐々にその領域を侵食されてきているというのが実情だからです。
裁判所における膨大な量の書類や事務手続き、医療現場におけるレセプト等の情報管理、一般企業における顧客管理や人事・総務関連の事務処理などが、IT技術の進歩によって劇的に効率化され、人の手を介すことなく処理することが可能になって来ていることからも、その傾向は明らかです。
こうした動きが、医薬業界にも一気に押し寄せてくるということを想像してみてください。
これまで医薬に関する情報を得るための窓口となってきたMRにとって代わり、医師が自ら”オンデマンドで(必要に応じて瞬時に)”そうした情報を得ることができるようになるわけです。(「MR君」などのサービスがさらに進化した世界を想像すると解り易いかもしれません。)
そうなってくると、製薬業界の在り方も(営業面において)根本的に変革が求められます。
つまり、MRを中心とした現場の営業職には、それこそ”営業力そのもの”が必要とされる時代に入ってくるということです。
もちろん、前章でも触れたように、画期的な新薬など唯一無二な付加価値を生み出し続けることができる製薬会社であれば、そこにいる営業職の人たちは、自社製品の競争力といった”武器”の恩恵を受けるということも可能でしょう。(そこまで営業力を求められなくて済む。)
一方で、そういった競争力の弱い製薬会社のMRともなると、そこにいる営業担当者としては、自社が持つ製品の競争力に頼ることもできず、前述の様な”オンデマンド”での情報力を持つに至った医師に対し、薬剤師としての強みを生かし切ることができず、今まで以上に厳しい競争を強いられる可能性が高いわけです。
これから先、薬剤師資格を持つMRといえども、薬剤師資格を保有しているということ自体が武器になるという時代は終わりを告げ、”いち営業職”としてとにかく営業力を磨くということが最も重要になってくると共に、薬剤師資格を活かした何か新たな付加価値といったものが必要になる時代に入ってくることが予想されます。
製薬業界にいる営業職の皆さんは、日々非常に厳しい”戦い”を強いられている人も多いのではないかと思いますが、今後益々厳しくなるであろう生き残り競争を勝ち抜くためにも、より一層の研鑽が求められると自覚しておくことが大切かもしれません。
調剤業務を行う薬剤師
最後は、薬局や医療施設において調剤業務を行っている薬剤師さんたちを取り巻く環境の変化についてです。
これは今のところ、医療行政の方向性に拠る所が非常に大きくなってくるというのが実情かと思われますが、少なくとも2つの点においては、技術革新によって確実に業務に変革がもたらされることになると考えています。
その2つとは、
- 調剤・処方業務の省人化
- インターネットの活用による処方形態の変化
これらの部分です。
まず1点目が「調剤・処方業務の省人化」です。
これは、日ごろから私自身が薬剤師さんたちと接する中においても、よく「薬局の仕事(調剤・処方)なんて正直誰にでもできますよね。」という話を聞くことからもわかるように、調剤と処方というオペレーションそのものを切り取った場合に限って言えば、省人化を進めることができる要素というのはいくらでも見つけることが可能です。
もちろん、その専門性に根差した役割として、現場の薬剤師に求められる素養というものはもっと崇高なものであり、医師との連携によってさらに医療の質を高めることを目指していくべきだという考えがそもそもの原点であるという大前提はあります。
ただ、こと調剤や処方業務そのものというオペレーションの観点においては、誤解を恐れずに極論してしまえば、「薬を用意して患者さんにお渡しする。」というだけのことです。
加えて、そこに付随する「薬歴の管理」や「適正な処方のためのチェック体制」などといった作業は、AIが最も得意とする分野でもあります。
では、調剤業務を担う薬剤師さんたちに今後期待される役割とはいったいなんでしょう?
それは、これまでとは全く異なった形での医療サービスの提供です。
具体的には、次のポイントである「処方形態の変化」というお話の中で触れていきますが、端的には、薬剤師という専門性をより高度化させ、より患者側に寄り添った、まさに”かかりつけ薬剤師”という形での活躍が期待されるということです。
動きとしては、薬歴管理における患者の日々の変化に対する”気づき”であったり、遠隔地や在宅医療を支えていくための訪問調剤といったものが想定されるかと思います。
したがって、今後は省人化を見据えた中での業務改革、すなわち、(AIなどの導入と薬剤師の)業務の分業体制とも言える働き方が主流になってくるでしょう。
医療の現場にどんどんと入ってくるAIなどの最新の技術を、それらが得意とする分野では存分に活用して業務効率を最大化するとともに、人間にしかできない部分を生身の薬剤師が担う、そんな医療現場になっていくわけです。
「日頃から定期的に患者さんに接する中で小さな変化を察知し、医師とも連携することで、大きな病気等の前兆を捉え、重病化といった最悪の事態を未然に予防する。」「臨機応変な対応や自動処理が難しい遠方への訪問調剤などの業務を中心にこなす」そういった役割こそが、これまで以上に医療現場における”生身の薬剤師さんたち”に求められることになってくると思われます。
続いて、2つ目のポイントである「インターネットの活用による処方形態の変化」についてです。
この点は、これまでにも盛んに議論がなされてきたことではありますが、「医薬品の処方に際しての”安全性”が担保されている」という環境の整備が進みさえすれば、そう遠くない将来には、「ネットでの処方」、「リアルタイムでの配達」といった形での薬の受け取り方というものも十分に実現する可能性があると思われます。
病院へ行った患者さんは、医師の診察を受け、そのままマイナンバーカードやスマホといったIT機器で診察後の手続きを瞬時に済ませ、自宅に着くまでには宅配ボックスなどに必要な薬が届いている、といったことが実現するようになるわけです。
さらに言えば、そこに遠隔医療の進化が加わることで、一般の病院やクリニックにおいても、患者さんは自宅から医師の診察を受けるといったことも可能になり、余程のことが無い限り病院へ出向くことすら必要なくなるという状態が実現されてくるかもしれません。
そうなると、もはや薬局という概念すらなくなっている可能性も高いですし、既述のようなリアルタイムでの自宅への薬の配達といった形が当たり前になっているでしょう。
そんな状況の中で、薬剤師の存在はもはや不要とされてしまうのかと言えば、私はむしろ、その存在意義が大きく変化しながらもより重要な役割を果たすことが求められるのではないかと思っています。
つまり、従来型の店舗での薬の処方という形ではなく、高齢者や疾患を抱えた患者の自宅などの場所において、より高い次元での医療サービスとしての”かかりつけ薬剤師”の役割というものが求められるようになってくると考えています。
そういう意味では、地域に根差した地元の薬剤師さんたちというのは、薬剤が各疾患に与える効果の高まりも相まって、一昔前までの”町のお医者さん”のように、これまで以上に”頼れる存在”になっていくかもしれません。
医療行政の方向性という観点からも、この”かかりつけ薬剤師”という考え方は進んでいく可能性が高いと考えています。
医師を中心とした医療従事者の深刻な人手不足が叫ばれる中、長期的に在宅医療を積極的に進めようとしている医療行政の方向性を見る限りにおいては、なるべく病院側の負担を軽くするための施策に補助金を出すといった形での民間の医療サービスに対する”誘導”ということも考えられますからね。
お年寄りたちが、毎日のように病院へ通うのが当たり前の姿として捉えられている現代の状況から、「病院へ行ったなんて、何があったの?何か大きな病気でもしてるの?」といった感覚になる日も近いのかもしれません。
おすすめの就職先
さて、以上の様な今後の医薬業界を取り巻く環境の変化といったものを踏まえ、最後にこれからの薬剤師さんたちはどのような会社・機関へと就職・転職をするのが理想的なのかという部分についてお話しておきたいと思います。
先に結論を言ってしまえば、究極的な理想形としては「個々の薬剤師さんが仕事に求めるものによって選択をする」ということになってしまいます。
「画期的な新薬の研究開発によって、不治の病や病気に苦しむ人たちを1人でも多く救いたい。」そんな正義感の強い人であれば「研究開発職」を目指す、「地域医療の屋台骨を支える存在として、町の頼れる薬剤師になるべく地道に処方活動を続けていきたい。」という人は「病院などの医療施設や調剤薬局」といった場所を選択するということになろうかと思います。
でも、ここで改めてそんな当たり前のことを言っていても、何の意味もありません。
ここでお話すべきは、今回長々とご紹介してきた薬剤師を取り巻く今後の環境の変化に対応すべく、現実的な選択肢として”目指すべき方向性”という意味でのおすすめの就職先ということになるでしょう。
つまり、要は「私は薬剤師としてそこまで突き詰めた目的意識があるわけではなく、一流の研究者の様にずば抜けた才覚もない。将来的にある程度”つぶしが効く”ような形で業務経験を積み上げていくためには、どんな就職先を選ぶべき?」そんな感覚の薬剤師さんたちにおすすめの就職先はどこなのか、というお話です。
それはズバリ【なるべく小規模な調剤薬局】です。
その理由は、今後どんな場所においても必要とされる、”薬剤師としての総合力”を高めておくことができる場所だからです。
順を追って説明しましょう。
もちろん、薬剤師として最低限の基礎的な知識や最新の理論の動向などをブラッシュアップし続ける努力というものが必要であることは言うまでもありません。
他方、前章において既にお話した通り、今後AIを中心とした科学技術の進展により、医療技術やそれをもとにした現場での対応方針、ひいてはその根幹をなす医療制度そのものが猛スピードで進化を遂げていくことになります。
そう遠くない将来には、「日常の医療サービスの提供」という部分においては、人の手を介さない診察、薬の調剤・処方といった形が実現されてくるということも現実味が帯びてきているというのも既述の通りです。
では、実際にそうした世界が到来した時、現場の薬剤師さんたちに求められる能力とは、いったいどんなものになっているでしょうか。
仕事に対する目的意識や、使命感、やり遂げたい夢などの方向性が明確でない薬剤師さんたちは、少なくともこの部分を意識してキャリアを築いていく必要があるかと思います。
新たな時代に、世の中で重宝される薬剤師の能力(病院、調剤薬局勤務の場合)とは、
- 既存の薬局の枠を飛び出し、一人一人の患者に寄り添い、その時々の顔色や様子から患者の異変に気付くことのできる”生身の人間の薬剤師”としての付加価値
- これまでの調剤業務の経験を活かし、AI技術の導入や業務効率の改善を実現していくための発想を持ち合わせた現場でのオペレーション・マネージメントスキル
おそらくこういったものが想定されます。言い換えれば、
AIなどによって省人化・効率化された医薬の世界においても、人として強みを発揮できる分野において卓越した技術・知識・経験・アイデアを有する薬剤師
ということになろうかと思います。
当然、慢性的な人手不足の状況下においては、「はっきり言って”優秀でない薬剤師”でさえも引く手あまた」といった”売り手市場”の環境がある程度継続していくことも予想されます。
でも、いつまでもそんな”ぬるま湯状態”が続くとは到底思えないということは、ここまでの”未来予想図”を読んでもらっても、少し感じてもらえているのではないかと思います。
これからの時代の変化というのは、これまでのように”ゆるやかな変化”ではなく、間違いなく”劇的に”訪れることになります。
既得権益層の抵抗度合い等による多少の誤差は考えられたとしても、今後20年、いや、早ければ10年程度のスパンでも、十分に”今が懐かしくなるようなレベル”での変革が訪れることになるのです。
そんな中において、
- 「薬剤師の採用が企業優位の”買い手市場”になり、薬剤師間で理想の職場を手に入れるための競争が激しくなった時、自分の行きたい会社に入れるように薬剤師としての市場価値を高めておきたい。」
- 「より高いレベルでの仕事、やりがいのある仕事に就きたい」
そう考えることができる人にとっておすすめなのが、「小規模な薬局」なのです。
では、「小規模な薬局」では何を得ることができると言うのでしょうか。
それは、上記のような変革が実際に起こった時に、病院・薬局経営者や、ひいては医薬業界に必要とされ、医療行政の方向性とも合致する薬剤師として能力とされるであろう、
幅広い薬剤師業務に精通した総合的なマネジメント能力
です。
小規模な組織では、ある意味で”一国一城の主”として、その薬局のほぼ全権を握り、それに伴う責任をも背負った形で業務に携わっていくことが可能になります。
もちろん、自分が負うべき責任が大きくなることに対するプレッシャーというものを感じてしまう人もいるでしょう。
会社や病院、薬局の規模が大きくなればなるほど、業務の内容はより細分化され、一人一人に対する要求水準は下がり、責任の範囲も小さくなると思われがちです。
でも、実際は違います。安心してください。
大病院ともなると、多くのスタッフの一部として自分を捉えてしまうことで、一見その責任は小さなものに感じてしまうこともありますが、何か問題が生じた際の全体への影響度という意味においては、非常に大きなものに発展する可能性を秘めてしまっているのです。
それは、大きな組織での大きな仕事における”小さな歯車”の様に感じていた自分の存在が、実は欠かすことのできない一端を担う重要な存在であるということを意味しています。
一方で、誤解を恐れず言えば、小規模な組織ではそもそも大きな仕事に携わる機会はほとんどないでしょうから、たとえ失敗してしまったとしても、その影響はたかが知れているわけです。
さらに、大きな組織では、結果的に小さな歯車の1つに徹することが要求される一方で、小規模な組織においては、分業体制を取ったり、一部の仕事を誰かに任せるということもできませんから、ほとんど全ての業務をあなた自身がこなし、全ての問題を解決していくということが求められることになります。
この「業務範囲の広さ」、「(適度な)責任の大きさ」こそ、小規模薬局でしか得ることができない、将来あなたの血となり骨となる”貴重な経験”と言える部分になるのです。
つまり、小規模な組織であれば、よりチャレンジングな姿勢で仕事に取り組むことができ、そして薬局の隅々まで目を届かせておかなければならない状況に必然的に追い込まれるがために、様々な事象に対して発想が浮かんだり、業務改善のヒントを見出さなければならないという”訓練”を行い続けることができる環境が、半ば強制的に用意されているようなものなのです。
将来、薬剤師が”買い手市場(企業や病院側が優秀な薬剤師を選り好みできるような採用状況)”になった時の採用担当者の気持ちを想像してみれば、これは簡単に理解できることです。
業務経験として、大きな組織の中で特別責任感を感じることもなく、ただ目の前の調剤・処方業務を淡々とこなすだけの毎日を送って来た薬剤師と、そういった基本オペレーションは完璧にこなしつつも、ある意味で薬局の経営者目線を持って、業務効率の改善や中長期での薬局の在り方、サービス業としての他店との競争意識があるような薬剤師とでは、どちらを雇い入れたいと感じますか?
さらに、もう一つ小規模薬局で得られる「幅広い薬剤師業務に精通した総合的なマネジメント能力」が真価を発揮するのが、AIの導入に際してのアイデア出し、現場対応の部分です。
これは、薬局を取り巻く環境が大きく変わった世界においても、あなたにとって非常に大きなアドバンテージとなるでしょう。
なぜなら、そもそもAIの技術者は薬局業務や薬剤師の求められる役割を理解していません。調剤・処方業務にAIシステム等を導入するにしても、そのための知見やアイデアは現場の薬剤師がこれまでの経験から出していかざるを得ないわけです。
そんな時にこそ「幅広い薬剤師業務に精通した総合的なマネジメント能力」が求められることになってきます。
いわば、最新の科学技術を導入し、改善していくための”アドバイザー”、”コンサルタント”的な立場として、あなたが非常に重要な価値を持っているということになるのです。
これが私の考える、来たるべき医薬業界の新時代において”必要とされる”薬剤師になるために、その能力を磨くことのできる環境が整っている職場として、「小規模な薬局」をお勧めする理由です。
せっかくこの記事と出会っていただいた薬剤師のあなたには、是非この点も少し頭に入れつつ、今後の転職活動等を進めてもらえれば、筆者としては非常に光栄です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、私の考える「未来の薬剤師」ということで、今医薬業界で実際に起こっている技術革新の状況や、想定され得る業界の流れといったものも踏まえた上で、「おすすめの就職先」「求められる能力」といったお話をさせてもらいましたが、少しは実感を持ってもらうことができたでしょうか。
足許(あしもと)の”売り手市場”全盛の薬剤師転職市場を目の当たりにしたことのある転職経験者の薬剤師さんなどは、今回お話したような”危機感”に実感が湧き辛いかもしれませんし、確かに、今回ご紹介したような劇的な変化には、ある程度長期的な時間が必要になるかもしれません。
でも、”その時”は確実にやってきます。
新たな技術の導入による業務の効率化やそれに伴う法整備が一気に進めば、それこそ採用する側の薬剤師の選別といったことが起こる事態にもなりかねないわけです。
将来、転職を目指してある会社の面接を受けた際に、
「それで、あなたは薬剤師として他の人にはない”自分の付加価値”は何だと思いますか?」
そう尋ねられた時、あなたははっきりと答えることができるでしょうか。
「自分の強み」や「これまで培ってきた他の薬剤師には無いような経験」、採用する会社に「この人は優秀だ。是非とも採用したい。」そう思わせることができる”武器”を示すことができるのかということを、今一度考えてみてください。
以前は世の中に必要とされ続けて来た職業や、あこがれの的だった職業が衰退していく、場合によっては世の中から姿を消すというようなことは、歴史上いくらでも存在します。
産業革命によって、手作業で行われてきた作業労働が蒸気機関にとって代わられ、作業員が職を失う。さらに時代が進むと、蒸気機関自体が衰退してしまうことで、今度はその蒸気機関に関する技術者が職を失ってしまう。冷蔵庫が出て来たことで、”氷売り”がいなくなる。自動運転車が出て来ることによって、運送ドライバーやタクシードライバーが不要になる。
どんな業界、どんな職種においても、たった1つの技術革新やアイデアによって、既存の業務フローなどというものは、それこそ”劇的に”変化してしまうものなのです。
今の状況だけを見て、その場所に安住し続けていてはいけません。
常に自分の市場価値を冷静に見極めるということが、今後さらに重要になってくるのです。
最後に、今回お話してきた内容を簡潔にまとめて、この記事を終わりにしたいと思います。
あなたが他の薬剤師さんたちと同じ、ただの”いち薬剤師”に甘んじることなく、いつの時代においても引く手あまたの”輝く薬剤師さん”であり続けられることを祈っています。
それでは。
【想定される未来】
- 技術革新で調剤・処方というオペレーションが人の手から離れ、AIや機械が行うことになる
- 医療サービスの在り方が大きく変革することで、そもそも店舗型の薬局と言う存在自体がなくなってしまう
【薬剤師に求められる能力】
- 高度な研究開発能力
- AIや機械が担うことのできない”人間の薬剤師”としての付加価値
- 調剤・処方を省人化・効率化するためのAI等の技術を導入するに際して、現場におけるアイデアを出すことのできる業務経験や問題解決能力
- 買い手市場に陥った時に強みとなるような他の薬剤師との差別化を図ることのできる総合的なマネジメント能力