コラム

【コラム】薬剤師が2,200億円の医療費削減に貢献!?処方箋の不備指摘で健康被害を防ぐ

「高齢化」は、今更言うまでもなく、日本が避けて通ることのできない道であり、今後さらに深刻化していくことで、インフラ整備を中心として、社会の在り方そのものを見直す必要が出てくる深刻な問題です。

中でも、その人口動態の変化がもたらす副産物として、着実に、そして未曽有のスピードで日本の財政基盤を脅かしかねないのが「医療費」の問題です。

今、政府、官僚たちは、この医療費の膨張に歯止めをかけるべく、様々な施策を検討し、実現可能性を探るとともに、新たな設計図を描こうともがいています。

一方、医療の現場レベルにおいても、大きな医療費の削減につながる動きとして様々な取り組みがなされています。その1つが今回のテーマである、薬剤師の処方箋に対する不備の指摘です。

福岡大学薬学部の神村英利教授とその研究班は、処方箋約3万枚を分析した結果、薬剤師が処方箋のうち2.3%において不備を指摘し、患者の健康被害を防ぐとともに、推計で約2,200億円もの医療費の削減に貢献しているとする研究結果を公表しました。

これは、処方箋や薬歴などと併せて患者本人の話などを照らし合わせた上で、処方に関する問題を医師に指摘し訂正する「疑義紹介」の中で判明したもので、中には、病状が悪化しかねない”処方ミス”も含まれていたと言います。

研究対象は、2006年9月~11月に調査対象となった4つの薬局で取り扱いのあった処方箋29,487枚で、その約2.3%に当たる670枚が疑義紹介されていました。さらに、薬剤の種類や量などの処方の変更、処方の取り消しは1,047件にものぼったということです。

処方の変更に関しては、重大な副作用の危険性や重複投与などについて指摘する”薬学的判断”が269件、適量の服用を目指し飲み残し等を防ぐための”日数調整”が534件となっていました。

こうした処方の取り消しや変更の中には、重大な副作用の危険性や、本来症状を悪化させるリスクがあり処方がされない薬剤の処方といったケースも散見されています。

研究結果では、こうした疑義紹介の結果としておよそ210万円の薬剤費を削減できたとし、副作用の回避等をもとに試算した”かからずに済んだ医療費”の総計は約720万円にのぼるということです。

さらにこれを日本全体で見た場合、年間処方箋枚数約8億枚をベースとして試算すると、約2,200億円もの医療費削減効果が見込まれるということで、これは国民医療費の0.5%に相当すると結論付けています。

副作用や重複処方等を防ぐということが、日本の医療費をこれほど大規模に削減する効果があるということを明確に意識している薬剤師は現場レベルではほとんどいないでしょう。

この結果を見ると、薬剤師としての職務の社会的意義の高さを再認識させられます。

一方で患者側においても、薬剤師側が適切な判断ができるよう、継続的に同じ薬剤師に服薬管理をしてもらうなど、その”素地”を整えるために”「かかりつけ薬剤師」の選定”といったアクションを起こすことが非常に大切になってきます。

日本の医療費は、今後高齢化が進むことで益々膨張していくことは疑いようのない事実です。

限られた財源を有効に配分し、国民全体の利益にかなう形で還元していくためにも、削れる部分は削る、自分のできる範囲で貢献できることはないかと考える、そんな姿勢が求められているのかもしれません。

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