にわかに信じがたいニュースでした。
2017年9月に京都大学医学部付属病院で薬剤師から処方された薬を使用した60代の女性が死亡した事件です。第一報を耳にして、驚かれた薬剤師さんも多かったのではないでしょうか。
なんとこの薬、本来の1,000倍の濃度で処方されていたのです。
「セレン欠乏症」によって通院をしていた女性患者が自宅で使用する目的で処方された注射液「セレン注射液」について、これを薬剤師が調剤する際、亜セレン酸ナトリウムの量を誤って通常の1,000倍の濃度に調剤してしまっていました。調剤時に計量器に表示される単位を勘違いしていたといいます。
女性が自宅でこの注射薬を点滴すると容体が急変。翌日同病院を受診し、”セレン中毒”による急性循環不全によって死亡しました。女性の血中セレン濃度は、基準値の20倍を超えていたとされており、院内に残されていた注射薬の濃度は処方箋の指示に対し1,000倍となっていたということです。
同病院の稲垣院長は、「亡くなった患者さんのご冥福をお祈りする。再発防止策に取り組む。」とコメントしています。
本件について京都府警は、2018年7月にこの薬剤師(男性薬剤師(32)、女性薬剤師(38)の2名)を業務上過失致死容疑で書類送検しています。
その後の検証結果では、薬剤師が院内の保管庫からセレン試薬瓶を取り出し、無菌室で水と混ぜて注射薬を作る際に、計量単位を間違えた可能性があるとされましたが、実際に調剤を行った2人の薬剤師は「いつも通りに調剤した。間違うことは考えられない。」とこれを否定していました。
さらに同病院は、「ミスがは発生した場所や時期は特定できなかった。」とした一方で、再発防止策として薬の調剤の際の手順書の改訂や計量方法の変更を実施したということです。また、薬剤師が継続勤務しているかどうかについては明らかにしませんでした。
そして今回(2018年12月28日)、京都地検は書類送検されていた2人の薬剤師を起訴猶予処分とし、その理由を「諸般の事情を考慮したもの」としました。
なお本件に関し、京都大学医学部付属病院側は特にコメント等を発表していません。
調剤ミスの容疑がかけられた薬剤師2人はその容疑内容を否定しているため真相は解りませんが、薬剤師としては非常に怖い1件ではなかったかと思います。
この2人が本当にミスの自覚がないのだとすれば、いつも通りに出勤し、いつも通りにいつもの薬剤を処方する中で、知らぬ間に致死量となってしまう薬剤を処方していたということになるわけです。
2人は起訴猶予処分となりましたが、時に”単純作業”の繰り返しといった状況も生まれかねない調剤・処方業務に関して、薬剤師さんたちは緊張感を持って業務に取り組まなければ、いとも簡単に人の命を落としてしまうのだということを、改めて考えさせられる事件でした。